ジェフ・ベゾス流、Amazon社内での会議のやり方とルール
効率的で生産性の高い会議を行う上でAmazon社が実施している、メモを使ったミーティングカルチャーやルールを紹介します。
今や時価総額で世界トップ5に入り、日本で言うところのGAFAの一角をなすAmazon。創業者であるジェフ・ベゾス氏もカリスマ性をもったビジョナリーとして世界を代表する起業家・経営者の一人ですが、彼がAmazon社内でのミーティングに関して徹底させていると言われているいくつかのポリシーや決まりごとがあります。
コーポレートミーティング、スタッフミーティングの生産性という観点から、なぜAmazonがこれらのやり方を習慣化しているのかという背景や理由まで理解すると、いろいろ納得することが見えてくるはずです。
パワーポイントは禁止
これはベゾス氏が it’s probably the smartest thing we ever did.(我々がAmazonでやったことの中でたぶん一番スマートな事)とまで語ったルールなのですが、かなり前からAmazon社ではパワーポイントの使用は禁止されているそうです。
パワーポイントに代表される従来のスライドショー的なプレゼンテーションは、シンプルで見やすいといった利点は確かにあるものの、見る側からすると情報量が少なく、背景まで含めてをしっかり理解するという点に関してあまり有効ではない、というニュアンスのことをインタビューでベゾス氏自身が語っています。
確かにパワポを作成する時点で要約したりまとめたりといった情報の整理が行われていますから、作成者が持つ情報とそのパワポを見る側が得られる情報に大きな乖離が発生することは容易に理解できます。
企業では「会議で情報共有といえばパワーポイント」というように、スライドにまとめるといった作業が当たり前の習慣になっている節があります。しかし本当にそれが情報共有という意味において最も優れた方法、あるいはツールかというのはあまり問われることがないかもしれません。
パワーポイントの禁止はスティーブ・ジョブズがAppleで徹底させた会議のルールのひとつでもあり、AppleとAmazonという革新的な2つの企業がともにパワポに否定的というのは非常に考えさせられる部分です。
会議のはじめはメモの熟読から
上記のパワーポイント禁止に対して、ではAmazon社ではどうやっているのかというと、(少なくとも幹部クラスが参加する会議では)まずはじめに30分程時間をかけて参加者全員で準備されたメモを無言で熟読する、ということからスタートするそうです。これは非常に特殊なミーティングカルチャーだとベゾス氏も認めており、新しくAmazonに入る役員などは皆驚くとか。
そしてこのメモというのは、その会議のアジェンダやトピックについて、事前にしっかり整理し、網羅的に情報がまとめられた文章で、その量は数ページから十ページ近くにもなります。これを作成する担当チームは徹底的にその内容について調査することが求められ、その詳細な情報を時にはデータやFAQとともにメモにまとめるため、パワーポイントの箇条書きのようなものに比べ、圧倒的に情報量が多くなります。
メモを事前に共有して、各自会議までに読んでおくというスタイルにしていないのは、Amazonの幹部が非常に忙しいため各自事前に時間を取って読むということの徹底が難しいため。(これについてはベゾス氏はインタビュー内で宿題をしない生徒に例えていました。)
あえて会議の冒頭でしっかりと時間をとって全員が熟読できるようにすることで、会議のベースとなる情報を参加者全員でしっかりと共有することができるような仕組みとなっています。また、実際にそのメモを作成した人(やチーム)にとっても全員がしっかり読んでくれているということがわかるというメリットもあるようです。
メモを読みながらあとで質問したいことなどが出てきても、メモを読み進めていると後からその点について言及されており、質問をする必要がなくなる、といったことも多々起こるので、このような点も含めて様々な面でこのメモと呼ばれている情報整理・共有方法はパワーポイントよりも圧倒的に優れている、とインタビュー内でベゾス氏は強調していました。
準備を行う作成者側と、会議の参加者全員が把握できる情報量の乖離を出来るだけ少なくし、全員でより詳細な情報を共有することができるという点、そして会議中に無駄な質疑応答を減らし時間を有効に使うことができるという点において、確かにメモ方式の優位性には納得できる点が多いように思います。
実際、最近自分としても参加した会議でパワポ形式での情報共有あるいはアップデートがあったのですが、「これ、文章でまとめてくれた方がよりしっかり内容を理解できるなー」と思ったことがありました。
最近増えているオンラインのビデオ会議では特にプレゼンの途中で質問するという行為のハードルが高い印象があり、かつそのスライドの詳しい背景がわからないため質問しにくくとりあえずスルーすると、結局最後時間がギリギリになってしまい質問できずじまい、という体験をしました。
パワポという一見当たり前の方法をあえて疑う、というのはどのサイズの企業であれ、多くの気付きが得られるはずです。そしてできる事であれば一度Amazon社のこのメモ方式を実践してみてはいかがでしょうか。
参加者全員の情報共有の解像度を高め、その後の議論をより本質的にし、結果として会議の生産性を高める、という好循環になる可能性は十分にあると思います。
ちなみに余談ですが、ジェフ・ベゾスとの会議に向けてメモを作成する側にとっては作成作業はかなり神経を使うそうで、その内容がQuoraに投稿されていましたが、実際に彼に会ったことがなくても十分そのしんどさは想像できます。
ベゾス氏は以前株主へ宛てた文章の中で、
The great memos are written and rewritten, shared with colleagues who are asked to improve the work, set aside for a couple of days, and then edited again with a fresh mind. They simply can't be done in a day or two.
と説明しており、メモの作成には週単位で時間をかけ、複数人の意見やレビューというプロセスが含まれることが垣間見れます。
尚、この文章を読むという会議のはじめ方は、TwitterとSquareのCEOであるジャック・ドロシーも推奨しており、クリティカルシンキングへの到達が早まるとツイートしています。
重要な会議は午前10時から正午までに入れる
ベゾス氏は朝はある程度決まったルーティーンを日課にしていて、会議を入れるのは午前10時からと決めていると語っています。そして彼が High IQ meetings と語る重要で頭を使う会議は一発目の10時からでスケジュール調整するそうです。
夕方5時にはもう頭を使ってクリティカルに考えることは難しく、そのような時は次の日の10時にスケジュールする、と。なのでたぶん17時以降の会議は一切ないのでしょう。
このことからも、彼がいかに経営者として決断・判断という行為を重要視し、ベストなコンディションでできる限りクオリティーの高い決断をすることに注力しているかが伺えます。
最後の重要な会議は午前10時からというのはベゾス氏限定のルールではありますが、パワーポイント禁止とメモシステムはAmazon社で行われているもので、特にメモシステムは会議の生産性を高めるために非常に効果があるとベゾス氏自身が推奨しているシステムなので、真似てみる価値は多いにありそうです。